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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)2043号 判決 1958年10月14日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人長崎祐三の上告趣意第一点について。

爆発物取締罰則にいわゆる爆発物とは、理化学上の爆発現象を惹起するような不安定な平衡状態において、薬品その他の資材が結合せる物体であって、その爆発作用そのものによって公共の安全をみだし又は人の身体財産を害するに足る破壊力を有するものと解するのを相当とすること当裁判所大法廷の判例(昭和二九年(あ)三九五六号同三一年六月二七日大法廷判決、集一〇巻六号九二一頁)とするところであり、論旨引用の第二小法廷判決(昭和二八(あ)二八七八号同年一一月一三日宣告、集七巻一一号二一二一頁)もこれと趣旨を同じくすること明らかである。所論は原判決の判例違反をいうが、先ず、原判決が一般的に右罰則にいわゆる爆発物の意義を説示した部分は、前記当裁判所の判例と趣旨において異るところはないからこの点において判例違反はない。次に、論旨は、原審が証拠により認定した本件ラムネ弾を右罰則にいわゆる爆発物に当ると判示した点は火焔瓶を爆発物に当らないと判断した所論判例に違反するというが、右判例の事件の事実認定において判示された火焔瓶と原判決において認定された本件ラムネ弾とは互いに構造、装置、薬品資材の性質、分量、使用法、性能殊に破壊力その他において相違するものであること明白であるから、所論の点については右判例は事案を異にし本件に適切でない。〔本件犯行に使用されたラムネ弾が、ラムネ瓶の中にカーバイト約一九瓦を詰めこれに水数十瓦を注入してこれを傾斜または倒立させて投ずるもので、この操作によりカーバイトと水の反応により急激多量にアセチレンガスを発生し且つその反応熱等によりそのガスの膨張を伴い、一方右傾斜等の際瓶内のラムネ玉が栓座に詰まって瓶の口を密閉するので、瓶内で噴出を続けるアセチレンガスの圧力が急速に高まり遂に瓶の外壁を破って急激にその体積を増大しよって瓶の破片を飛散させる現象、すなわち右のように発生したアセチレンガスが密閉された瓶内で急速に充満増加するため高圧を生じそれが瓶の耐圧限界を超え前記のようにこれを破裂させるに至る現象を惹起するものであり、そして本件ラムネ弾の性能、威力が、前示のようにして水数十瓦を注入して傾斜若くは倒立させ玉が栓座に詰まって密閉されると、一七秒ないし二五秒位で爆発しその際、百七十数個のガラスの破片(三糎以上のもの約二六個)を大部分は一〇米以上、最大距離三六米に飛散させ、その身体若くは財産に対する損傷能力はラムネ弾から約一〇糎離れた距離にある窓硝子、サラシ木綿、牛皮等があると、窓硝子はめちゃめちゃに破損し、サラシ木綿は所々に切ったように口が開き、多くはラムネ瓶の破片が通過した形跡を示し、革皮も切れて破片が通過する……偶々実験中約五米の距離に居た実験補助者の足に硝子の破片が当りしかも破れ口でない部分が当ったと想像されるのに洋服及び靴下を通して皮下出血を起した事実があり、五米ないし一〇米の範囲であれば人体を傷つけ五米ないし五米より近くであれば治療を要する程度の傷を与え、またその爆音は屋外では五、六十米以内、屋内では三〇米以内に居る人を驚かしめるに足るものであること、その他原判決の認定したようなものである以上、右発生したアセチレンガスが瓶内で急速に充満増加するため高圧を生じ瓶を破裂させるに至る現象は一種の物理的爆発現象であるとし、本件ラムネ弾は右罰則にいわゆる爆発物に当るとした原判示は相当である。〕

同第二点について。

所論は単なる法令違反の主張で刑訴四〇五条の上告理由に当らない。〔所論の公務執行妨害罪の点につき、原判決が是認した第一審判決の認定事実の要旨は、被告人は、判示日時、場所で判示田川税務署間税課長大蔵事務官金丸数馬以下一七名及び福岡国税局係員が被告人に対する酒税法違反事件につき裁判官の発した捜索、差押許可状により密造の疑ある判示焼酎入甕二個を路上に運搬し内一個を税務署使用の小型自動車に積載するや、右税務署係員の職務の執行を妨害する目的で、判示の鉈をもって右自動車上に積載してある焼酎入甕一個を破砕流失させ、次いで、右金丸数馬に対し「写真を撮ったろう」と怒号しながら同人よりその所持する写真機を取り上げこれを鉈でたたき壊わし、更に、同所にいた福岡国税局間税課大蔵事務官山下哲に対し同人の襟首を締め上げて小突き回わす等の暴行を加えかつ右鉈を振り上げて「云わないと殺すぞ」と申向けて脅迫し、右金丸、山下等の職務の執行を不能ならしめたというにあたり、右判示によれば、判示税務署係員等が甕二個を差押えて路上に運搬しその内一個だけは税務署使用の自動車に積載したが他の一個はなお自動車への積載に着手せんとしてその職務を執行中に、被告人は判示のとおり係員金丸、山下に対し暴行、脅迫を加えたものであること明らかであるから、これが公務執行後に加えられたものであるとの論旨は原判示に副わない事実誤認の主張に過ぎない。また、判示税務署係員等が許可状により現場を捜索して差押えた密造の疑ある焼酎入り甕を運搬して引揚げるため自動車にこれを積載した際、鉈でこれを破砕し流失させる所為は直接右公務員の身体に対するものでなくても刑法九五条一項にいう公務員に対して加えられた暴行と解すべきである。(昭和二五年(れ)一七一八号同二六年三月二〇日第三小法廷判決、集五巻五号七九四頁参照。)所論は採用するに足りない。〕

弁護人伊東三郎の上告趣意について。

所論は単なる事実誤認、法令違反および量刑不当の主張で刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(本件ラムネ弾が爆発物取締罰則にいう爆発物にあたることについては弁護人長崎祐三の上告趣意第一点について説示したとおりである。)

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一)

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